独学の数学者また/佐々宝砂
 
越えてきた人たちがいて、そのひとたちは魔法が使える。科学もわかる。そうした一部の人たちが主人公の肩を叩いて、「よくやったなあ」と賞賛する。君はグライダーを使ったが私は熱気球だった、よくやった、よくやった……。この小説自体は軽いノリのあっさりした短編なので、壁を越えて以降の主人公の成長については描かれない。話はここで終わってしまう。

しかしこの主人公、これから先がたいへんなのではなかろうか。と最近私は考える。壁を越えて科学世界の人々に出会ったときの主人公の気持ちって、どんなもんなんだろう。嬉しいか、悔しいか。主人公の世界観は百八十度変わってしまい、自分一人で歩いてきたと思っていた道が、実はもう
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