浄夜??遊戯する断片 デッサン/前田ふむふむ
、耳の底に、みずの音が流れている。
わずかな耳鳴りのおくから、沈黙は、わたしと対話を繰り返す。
見渡せば、無言の静物には、雄弁な顔がある。
(黄色にやつれて、地球儀の食卓に並ぶ本たち。
(テーブルの平原を航海する林檎たち。
(乳房を晒して、燃える水槽に浮ぶ花たち。
弧は、円を掬ばない。
だが、透きとおる薬剤を手にする、わたしには顔がない。
仮に、死者が背中を叩いても、
わたしには、見せる顔がない。
顔だけは、あしたの白昼の海辺のむくろの下で、転がって、
生きている乾涸びた声で泣くだろう。
五
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