妻の話/吉田ぐんじょう
にびくっとしていた
妻は朗らかに恋人に話しかけ
珈琲をすすめた
変な光景だった
恋人が帰ったあと
二人で洗いものをしていたら
楽しい方ね
また来て下さるといいわね
と妻が言った
横顔が一瞬
鬼のように見えたが
見間違いだったろうか
嫉妬をしていたんだろうか
*
恋人から電話がかかってきた
妻は夕食の買い物に出ていて
わたしは太宰か何かを読んでいるところだった
電話は四十五分に及んだが
恋人が主張したのは一点のみだった
すなわち
妻と別れて欲しい
何故なら俺には君達が理解できないから
と
『斜陽』では弟が自殺したと
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