妻の話/吉田ぐんじょう
たところで
山場だった
早く読み進めたかったので
折り返し電話することにして切った
枕に顔を埋めると
妻が柔軟剤を変えたようで
ふかふかと花の匂いがした
恋人にはそれきり電話しなかった
夕飯は厚揚げだった
*
妻がわたしを呼んでいる
行ってやらなければならないので
このお話はここまでにしよう
妻はとても小さいので
棚の上のものを取るのに
いちいちわたしを呼ぶのだ
顔について書くのを忘れたが
特に重要ではないだろう
妻は今日
花柄の浴衣を着ている
一緒に花火大会に行くのだ
あなたは脊が高いから
男ものを着てください
等と言っていたが
そうだ
りんご飴を買ってやろうかな
呼び声が一段と高くなる
わかったよ
今行くから
*
2006.8.27
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