視界が開ける瞬間 ??望月遊馬『海の大公園』について/岡部淳太郎
かもしれない。
その後、先ほど引いた「海をとつぜん想いおこす」と対比させるかのように、「血の池を、針の山を、なつかしいと思う」とある。これはそのまま人生の「地獄」の描写であろうが、それすらも「高速でかなたに消え」てしまい、「とり残されたわたしは、やはりなつかしい」と思うのだ。普通であれば「地獄」のような過酷なものは「なつかしい」と感じるものではないだろうが、ここでの語り手はひたすらに「寄る辺ない感情」を抱えてしまっている。だから、そのような過酷なものにさえもノスタルジアを感じてしまう。
そして、詩の終りではこう語られている。「ここから歩けば、いつかは/そこに着くのだとわかる。わかるから、い
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