視界が開ける瞬間 ??望月遊馬『海の大公園』について/岡部淳太郎
やはり、ひらひらと落ちてくるのであった。
(「回帰」部分)}
何か寄る辺ない淋しげな感情が、ここでは語られている。その後、いきなり「海をとつぜん想いおこす」という転換点となるような言葉がやって来る。だが、その描写は「海」そのものではなく、「磯から匂う特有の潮」であり、「皮膚と皮膚にくいこんでくる」「ふじつぼの突起」であり、「波をうけて光っている」「いつから生えているのかわからぬ松」である。「海」そのものではなく、「海」に隣接するものたちへの執拗な描写。その後に置かれた「白い円形の物質」の描写はどこか観念的でわかりづらいが、語り手が寄る辺ない淋しげな感情を持っているからこそ、「海」
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