視界が開ける瞬間 ??望月遊馬『海の大公園』について/岡部淳太郎
け抜けてゆく風に揺れたのは何であったのか。海の音がする。波の狭間の貝殻に耳をあてた感触が腹の底から浮いてきて、海はどこにあるのかと、ひがしを見た、みなみも見た、どこでも見た。なんもかも見た。そうして、海がないことを知ったとき、私が気付いた波の音がどこからしたのだろうかと、それはもうどうでも良いことなのかもしれない、オウバ蝶の吐き続けた砂糖をみつけるために、この街道をあの白い塔まで行こうと思う。まだ、枕の下から覗く空にとらわれながらも。そうして、境界を取り払った時には、私と、私以外との境界が完全に失われ、そうなった私には永遠に波の音が聞こえ続けることだろう、オウバ蝶に闇を与える。
(「オウバ蝶
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