視界が開ける瞬間 ??望月遊馬『海の大公園』について/岡部淳太郎
 
蝶の吐き出した、甘い砂糖によってきちんと引かれている。私の頭上にかすれた水がたくさん浮遊して、雲と雲に溶け込むように、トンボが一匹泡を吐いた。地震かと思って、思わず身構えた左手の狭間には、枯れかけた子供たちがいて、私のようやく動き始めた眼球がそれに答える。それでもたりなかったから、屋上まで上がって、両手でそれに答えた。右手はすこしネジが外れかけているから、固定されたままだけれど野菜を片手に一生懸命手を振った。空は赤かった。遠くのほうの気球からあぶくの音がして、私の想いが通じたことを知ったけれども、まだ振る手は止まらない。オウバ蝶がたくさんあの空を飛んでいる。気球の先のまだ先に見える、そこから駆け抜
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