視界が開ける瞬間 ??望月遊馬『海の大公園』について/岡部淳太郎
 
るから、私は顔をあちら側に見せている。すべての生き物が、空からあらかた落ちてしまうと、空は必ず地響きを立ててゆるやかな、かく乱を始める。昨日からオウバ蝶は、私の世界に遊びに来て砂糖を口から吐き続けているから、甘い砂糖に埋もれた私の四肢はべたべたになってしまったのだ。こうして目線をすこしずつ、あの青すぎる空から下にさげてゆくと、白い塔の傾きかけた廃墟が見えてくる。白い塔の中には、賭け事に負けた男達が葉巻を吸って、そのたびにメーターの針が振り切れてしまう、私の目の前に広がるくねくねした街道を進んでゆけば、かならずあそこに到達することが出来るだろう。私の世界と、あちらの世界の明らかな境界線は、オウバ蝶の
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