視界が開ける瞬間 ??望月遊馬『海の大公園』について/岡部淳太郎
 
くるが、まだ海は見えない。さらに歩く。細い路地をぬけ、海沿いの幹線道路に出る。それまで見えなかった海が、やっと姿を現す。これもまた、視界が開けるような感覚である。
 このようにして海を見るということは、私にとって一種の愉悦である。もしも理想の海の見方などというものがあるとするならば、このようなシチュエーションこそがまさに理想だと言える。いつもそこにあるのではなく、いきなり視界が開けるように目の前に現れる。いつも自分の傍らに海があるのではなく、たどりつくようにして海と遭遇する。海を発見する。いくつものトンネルを潜りぬけた末に、街中を歩き回った末に、その暗さや辛さの代償のようにして、海が目の前に現れ
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