遠い手 デッサン/前田ふむふむ
ったわ。
(ほんと、手を握ったきり離さないのよ。
(わたし、少し恥ずかしかったわ。
開けない窓を、舐める雨の雫が、かすかな意識の紐を緩めて
ふたたびの、浅い眠りを宛がわれる。
(あの日、父さんに叱られて、海辺で泣いたの。
(悲しくて。
(海の向う岸は、一面見渡すかぎり、真っ赤に燃えていたわ。
(従兄弟のさっちゃんも死んだわ。
(とっても、怖かったの。覚えているわ。
(あの日、震える興奮を覚えたの。
(きっと、あの日から、体をひらいて受け容れたんだわ。
(青い眼のうさぎを。
(でも、幼馴染の彼は、そのとき、手を握ってくれていたわ。
(とても、強く。
暗闇が灯台を
[次のページ]
戻る 編 削 Point(14)