遠藤周作の墓前にて。/服部 剛
」
「遠藤家」と刻まれた墓石の表面に、両脇に生けた花々と、その
間の空が映っている。墓石に映っている空の向こうに、遠藤先生は
いる気がする。
時計は正午を過ぎ、墓石の芝生に座る私は、遥か頭上の空に昇る
真夏の太陽の陽射しを避けて、鞄から出した折り畳み傘を差す下で
本を開き、晩年の遠藤先生が病室のベッドの上で奇跡的に一時意識
を取り戻し、息絶え絶えに呟いた、生涯最後の言葉を読んでいた。
それは遠藤先生より先にこの世から旅立った、若き日に師と仰いだ
恩師への、追悼の言葉であった。
「 昨年初めから暮れにかけて、
私は三度、入退院をくり
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