近代詩再読 村野四郎/岡部淳太郎
 
一冊だけで村野四郎という詩人が代表されてしまうような錯覚を覚えてしまいそうになる。感傷の排除と実験の瑞々しさ。だが、この詩人の本質はそんなところにありはしないだろう。『体操詩集』以降に書かれた膨大な詩群を読んでいくと、村野四郎というひとりの詩人が描き出す世界は、誰もが生の中で何度も潜らなければならない「孤独」という感情とまっすぐに向き合ったものだと感じられる。


うつくしい思想が花ひらくかげに
私は目だたずに実をむすぶ

遠いこえが
近いこえの中に消されるように
私はたえず
私をうち消すものの中に生きた
昨日の花
おお 遠いこえ

(「遠いこえ」全行)



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