海?夏の匂い/前田ふむふむ
 

ひたひたと打ち寄せる若い海が、
青い匂いに弄ばれて、言葉の果てで立ち尽くす、
夏に縛られながら。
波は立ち眩んで、一滴ごとに、ほころびる海の雫が
暑さに滲んでいく――。

散らばる熱が、濃厚に攪拌されて――、
生み続ける時間の沼から、指し示す指先を、
かすかにひろげて、
海の膨らんだ呼吸の音の縫い目を、
芽吹いた瞳孔の底でなぞってみる。

うっすら汗ばむ感情の空に浮ぶ、
軋みだす選ばれた名前は、海の視覚に馴染み、
ひかる暗闇を磨きながら、
移りゆく白昼の眠りを、切り裂いてゆく。

張りつめた海の肉芯を、青いひかりが貪りだせば、
厳かに、みずの泳ぐ声がこぼれる
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