「 ひとくちの月。ふたくちの夜。 」/PULL.
 
て帰れてはいまい。
首尾良く何とか月を取り出せたら、
ここからが腕の見せ所になる。
乾いた木のまな板の上で、
よく研いだ包丁で月の腹を裂く。
萎んだ月の腹は刃物を通しにくいが、
クレーターの窪みに沿って刃を入れれば、
意外にすんなり刃が通る。
両手が入るぐらいまで裂けたら、
中に手を突っ込んで、
臓物を一気に引きずり出す。
それを大皿の上に置いて形を整え、
天然の塩を丹念に塗した後、
塩と一緒に瓶に詰める。
そして三日三夜寝かせれば、
下弦の月の塩辛の完成である。
これに比べれば、
あの太った鵞鳥の、
肥大した醜い肝臓など、
野暮ったくて、
到底食べられたも
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