「 ひとくちの月。ふたくちの夜。 」/PULL.
たものじゃない。
ひとくち食べれば、
誰だってこの虜になってしまう。
聞いた話では、
中国のとある皇帝が、
仙人の悪戯でこれを食べ、
病み付きになったあげくに、
国を滅ぼしてしまったのだそうだよ。
おや、
どうしたんだね。
今すぐ外に飛び出して、
今宵の月にかぶりつかんばかりの、
顔じゃないか。
しょうがない。
君と君の連れ合いのためにも、
これだけは言っておいてあげるよ。
いいかい。
この話を聞いたからといって、
自分で再現してみようなどとは、
夢々想わぬこと。
これを肝に銘じて欲しい。
君が先週しでかした、
一夜の戯れとは、
住む夜が違うのだ。
ひとくち間違えば、
月にひとくち、
夜にふたくち、
喰われてしまうのだぞ。
了。
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