サハリーニャ/クリ
 
ているはずはなかったのを本当の意味で知ったのは北海道に渡って少し経ってからのことだった。タラップの手前で依然わかなの顔を探していた珠恵は、母親の大きな声で、捜索を中止した。「敷香の親戚の娘なんですよ、本当に」と母親が言っていた。
 千代のことだった。係のものは「名簿が一緒じゃないから今一緒に船には乗れない」と言った。「その娘はあっちで親が来るのを待つように」と。千代は親戚でもなんでもない。うちとはなんの関係もない。千代には家族も親戚もない。うちの隣の廓の女の子だ。ただの珠恵の喧嘩仲間だ。珠恵は千代に対しては始終「後家、後家」と言って囃し立て、千代は千代で「露助、露助」と珠恵を呼ぶ。でもそれは憎
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