王の退屈/知風
 
、事件と言えば争いも飢饉も疫病もひき逃げ馬車もはぐれる小羊さえもなく、山賊海賊義賊の類、はたまた強盗怪盗夜盗虫、テキ屋にダフ屋にいんちき占い師にいたるまで、諸々の王権による誅罰(ちゅうばつ)に値する者らいっさいが全く出没しないほど、いたって平和そのものであった。

 王はそれが気に喰わない。季節風の頃になると<風水母(かぜくらげ)>と一緒に積雲に乗って帰ってくる吟遊詩人たちが難解で時に飛躍するメタファーを駆使して伝えるところによれば、遠い異国では多くの氏族を跪かせる偉大な皇帝が幾人も生まれては滅んでいったという。すぐ隣国ですら、もう二十年間も賑々しく<拝石教>と<万象想像論者>の間
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