鎖帷子のおれ、癒され過ぎ。/カンチェルスキス
 
・テレビジョンの表紙の人だったらどうするんだ?」
「お手上げね」
「何に対してだ?」
「そうね」女はつぶやく。「この世にあるすべての甘味料に対して」
「恋したらいいじゃないか」
「だめよ、わたし、こんなにも気だるいもの。ねえ、あなた」女は言う。
「何だよ?」
「首がおかしなことになってるわよ」
「いいんだ」
 畜生、とおれは思った。この女がだんだんいい女に見えてきた。初め見たときはそんなふうに思わなかった。桃井かおりを水で薄めたような女と思ってたのが、今じゃ水に桃井かおりの最良の部分である腐りかけの桃みたいなアンニュイテイストが加わり、つまり熟れすぎた桃の天然水のように思えてきた
[次のページ]
戻る   Point(2)