鎖帷子のおれ、癒され過ぎ。/カンチェルスキス
 
ざおれがそれだけを買いに行くのもそのためなんだ。
「持ってるんじゃない、挟んでんだ、そこらへん間違うと、あんた、明日から鼻の穴のどっちかが糸井重里みたいになっちまうぜ」
 畜生、とおれは思った。この姿勢ってなんてしゃべりにくいんだ!あんまり喋りすぎると、レモンを落としてしまう。落としてしまった時点で、イタリア・ピサの斜塔がまっすぐになっちまう。そうなったらイタリア観光協会から大目玉だ。外交関係も悪化するだろう。国と国との問題になってしまう。それだけはおれは避けたかった。
「わたしが知りたいのは、あなたが梶井基次郎さんかどうかってことだけなの」
「おれが仮に、梶井基次郎さんじゃなくて、ザ・テ
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