鎖帷子のおれ、癒され過ぎ。/カンチェルスキス
なってしょうがなかったが。
電車の中、向かいに座った女がじっとおれを見ていた。だから、服着てくるの忘れたのかなあとおれは思ったんだ。ところが、どう考えてもおれはちゃんと服を着てた。上着の袖口あるいはズボンの裾なんかから足や頭もちゃんと出してるし、両腕を服の中で動かして「ああ!エイリアンが服ン中にいる!」なんて言ったりもしなかった。オスマシ顔で座り、携帯電話の広告の女を見ながら「こいつんち絶対黒電話やで」とか思ってただけだった。おれの目にはファスナーなんかついてなかった。気のせいに違いなかった。ただおれが男前だからこの女はおれを見てるんだと力強く思った。この女、桃井かおりを水で薄
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