鎖帷子のおれ、癒され過ぎ。/カンチェルスキス
で薄めたような女。テーブルに置いたら勝手に歩きだすようなごついスウェードのブーツを履いてた。地方都市のこじんまりとしたロータリーの片隅にある駅前の本屋の主人が大切に育てた娘みたいな女だと言えば、わかりやすいのかどうかおれにはわからない。つまり、そんな女だった。じっと見てたら、女はいきなり言った。
「梶井基次郎さんでしょ?」
畜生、駅前の本屋の女、とおれは一瞬思った。何てこと聞きやがるんだ。おれは黙ってた。女が次に何を言うか待った。
「だって、レモン持ってるから」
おれは右頬と右肩でレモンを一個挟んでいた。そういう意味で、おれは歯を食いしばっていた。こんなに歯を食いしばったのは、ファイト
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