鎖帷子のおれ、癒され過ぎ。/カンチェルスキス
 
パン。ピサのみなさん。ごめん。おれは責任を果たせなかった。元々おれには荷が重すぎたんだ。日伊友好親善大使みたいな役回り。こんなおれにできることはあまりにも少なかった。
「最近、酸味が足らなかったのよね」残りのレモンを口に放り込むと、手についた果汁をブーツのスウェードで拭って、おれに向き直ってから、女は言った。「これからサムゲタン食べに行くの。あなたも、どう?」
「梶井基次郎さんのことはもういいのか?」
 おれは呆然としていた。
「いいのよ、梶井なんて。わたしは出来上がったものにはあまり魅力を感じないタイプなの」
 女はまた熟れすぎた桃の天然水のようになっていた。気まぐれ女はごめんだ。女の
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