鎖帷子のおれ、癒され過ぎ。/カンチェルスキス
 
ひと言で終わりだった。女がひどくつまらなさそうな顔をした。元の桃井かおりを水で薄めたような女に戻っていた。熟れ過ぎ桃の天然水はどこにも存在しなかった。おれは花粉症防止のための赤い金魚の覆面をかぶっていた。
 女の足元にレモンが転がっていった。拾い上げ、女はレモンをかじった。かじるというより、かぶりついたと言ったほうが正しかった。半分までかぶりつくと、レモンには土砂崩れしたみたいな歯型がくっきりついた。
 畜生、とおれは思った。こいつは女スパイだ。被害者に何らかの恨みを持って犯行に及んだ犯人のようなスパイだ。ごめん、とおれは自分の肉体が崩れ落ちるような感覚の中で思った。イタリア観光協会。ジャパン
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