真夜中の走者/杉菜 晃
お先に などとほざいて
追ひ抜いていくが
本物なら本物らしく
無言で抜いていかなければならないんだ
本レースのとき
いちいちお先に失礼なんて言はないからだ
いづれにせよ
彼らには明日がある
具体的な目標があるつてことだ
問題はそれがそのものにとつて
目標になりうるかどうかつてことだ
走ること自体が目標だ
なんて言ひはじめたら
行く先もないのに
バス停に立つのと変らない
待つそのことが目標だなんて
詭弁を弄しはじめる
一日中公園のベンチに
坐り続けるホームレスまでは
もうすぐだ
しかし彼らは底知れぬ空虚を
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