書かれた−母/音阿弥花三郎
「上は大水 下は大火事 なあに」
子どもが呟くと
ベッドは元に戻った。
湿地帯を父と母と子どもが歩いていく。
三人が一緒というだけで
子どもには何となく浮き立つものがあった。
何のきっかけか、父と母は黙った。
やがて父は湿地帯の高い草の中へ消えた。
母は父を追おうとはしなかった。
まもなく子どもの目から涙が流れ出すだろう。
湿地帯に隠された母の書いた本。
それは母が結婚する以前に書いたものだ。
ほとんどが濡れており
読むことは不可能だ。
細い水の上を書かれた言葉が
流れていった。
父はなぜ母と結婚したのか
そんなことを子どもが考えていることを
大人は
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