地の花/木立 悟
山へと向かう道の角を
一本の木からあふれた花が埋めてゆく
新月の原
うずくまる獣
高く低くつづく夜
響きのなかに現われる
草色の歌
波うつ獣の背の上に
花の名をつぶやく口もとに
在りつづける歌
光が油のように岸を流れる
水が水に影を落とす
魚が泳ぐことなく
激しく回りながら
隠された翼をひろげるとき
独り歩む子の巨大な背が
シリウスの雲間を過ぎるとき
夜を見つめるものはみな
変わりはじめるものとなる
丘の上から去り
雪に覆われた川を下り
夜の河口にたたずむものとなる
午後の時計が指さす先に
光の蝶のゆく道が
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