地霊/岡部淳太郎
 
来る前からここにいた)

そう
たしかに いた
人間の事情よりも
霊の日課が優先されるべき
非常から
皿の割れる角度で
腥い胃液の破裂する音が
聞こえていた


  右手に大山(おおやま)が見える。本町。落合。今泉。ご
  く当たり前の地名にも、当然のことながら、
  そこに住む人びとと鳥獣が存在する。切開さ
  れた山野の草の嘆きを背負って、新しい物語
  はどこまで伸びてゆくことが出来るだろうか。
  清冽な水はもはや塩の臭いを湛え、明るい喉
  を潤している。城址も朽ち果てて久しく、乾
  いた傷口として黙りこんでいる。すべての扉
  を閉ざして
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