地霊/岡部淳太郎
 
して人びとは暖まる。そして、何とい
  うことか。ああ、この川には水がないのだ。


ふうふうと
息を目醒めさせ
ふうふうと
風とともに流してゆく
この坂道の下に
眠るものの声を
墓石よりも遠い声を
乱れた歯並びの隙間に書き
しるして
地のことわりは
逆転するだろう
暗転するだろう
骨でさえも炙って
ふうふうと
息をのぼらせれば
おお
桜吹雪!
季節は順応する

(私はあなたが来る前からここにいた)

聞き逃してきた声
耳朶の不足を補うもの
それでも人は
地境を踏み
地脈を踏み
地の霊の 喉を踏み
歩いてゆく
水の溜まる関節
その曲
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