「 やかん。 」/PULL.
りおる。
あれは此奴であったか。
時折、
ここの台所で、
熱い視線を感じると、
想うておったのだ。
けれどその主が、
やかんであったとは、
面妖が過ぎて、
想像もせなんだ。
またどこぞのおんなが、
食器棚の隅に、
潜んでおるのかと、
楽しみにしておったのに。
それがやかんとは、
ああ口惜しい。
しかしである。
じりじりとした、
あの熱い視線。
あれには懸想が籠もって、
おったように想う。
はて、
やかんの性別などと謂うのは、
てんで解らぬのだが、
やはり入れるものであるからして、
おんなであるのだろうか。
いや待て
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