労働者の哀歌-帰宅編-/松本 卓也
 
たとえ咽るほど湿った空でも
たとえ二カ月しか経ていなくても
そこが「我が家」であるという事実に
これだけの安堵を感じられるなんて

雨足は強くなっていくにつれて
今日から押し流されていく昨日が
何かとてつもなく得がたかったような
そんな錯覚を抱かせてくれた

不快指数が上がっていくたびに
クーラーの温度を一つ下げて
他愛もない一文を書き落とす

貴かったのはこれまでの時間だけじゃなく
きっとこれからの時間も同じくらいで
先週までの僕は繰り返しに飽いたあまり
明日に待っている変哲の無さを
理由もなく呪っていただけなのだから

同じように見えて同じじゃない一日
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