書かれた-父/音阿弥花三郎
(父、父、お父さん、と泣く声が聞こえるがあれは誰の声であろう)
(息子か、ならば過去からの声か)
(父か、ならば冥界の声か)
父は失踪をくわだてた
湿地帯の臭気が漂う家族から
父の体臭が漂う家から
父が「赤の他人」と呼ぶ人々から
足をすくわれ転び
倒れたまま父は泣く
*
父の休日、それは家族の恐怖だ
猫のような怠惰と犬のような愛想と
気まぐれな不機嫌が家族を縛る
新聞を広げた父
聞くに堪えない声で家族を呼ぶ父
母音の発音に開けた口には歯は見えず
舌の上を探る蠅がいる
(父、父、お父さん、と泣く声が聞こえるがあれは誰の声であろう)
*
深
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