書かれた-父/音阿弥花三郎
深夜の寝言といびきと歯軋りそれは
父の恐怖の叫びだ
(父、父、お父さん、と泣く声が聞こえるがあれは誰の声であろう)
*
腐敗の時間のオリのなかで
廃墟に佇む父
しかし父そのものが廃墟なのだ
不安定な床板と
風雨で浸食された壁と
理解不能に歪んだパイプのぶら下がる部屋
(父、父、お父さん、と泣く声が聞こえるがあれは誰の声であろう)
*
失踪を企てた
父の計画はあまりに浅はかだ
その結果息子に殺される
あるいは息子は殺し損ねる
それは古代の劇ではない
現在という時間のさなかで
父は死の時刻まで生きる決意が強いられた
しかし永い時ではない
なぜなら父は湿地の瘴気に侵され危篤だ
屍骸は湿地に埋葬されるだろう
あまたの卒塔婆が、父の
勃起したペニスのように屹立するだろう
(父、父、お父さん、と泣く声が聞こえるがあれは誰の声であろう)
(息子か、ならば過去からの声か)
(父か、ならば冥界の声か)
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