坂下さん/MOJO
はモツ煮定食を頼んだ。
「なぁ、太一くん、なめろう、って何のことかわかる?」
「青魚を使った漁師料理でしょ?」
「そうだけど、なんで、なめろう、なのか知ってる?」
「そこまでは知らないよ」
また坂下さんの薀蓄が始まった。ぼくは坂下さんのこういうところが苦手である。開陳したいのなら、人を試すようなことをしなければいいのに。
「漁師がさ、美味すぎて皿を舐めるようにして食べるんだ。だから、なめろう」
「へぇ、そうなんですか」
ぼくは心中で舌打ちしながら素っ気無く応じる。坂下さんはどうでもいいことを良く知ってますね、とは言わずに。
黒川さんはモツ煮の汁を丼に余った白飯にかけている。
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