人情と理論と説教/長谷伸太
わたれず立ち往生する老人や、足をひきずりながら階段を登る人を見て、たまらない気持ちになる事があるだろう。その気持ちを、思いあがりだとか、優越感にひたりたいだけだとか言われて、実際そうだとしても、可哀想と思う気持ちがあった事にかわりはないだろうし、思う事は誰にも止められない仕方の無いことじゃないか。
誰もはっきりとは言わなかったが、私が細すぎる腕で荷物を運んでいる時、確かにほんのりと、可哀想だと思ったのだろう。お前もそう思ったのだろう。誰も私に荷物を運ばせようとしなかったし、見つからないようにこっそり働くと怒られた。尿やら肺やらの検査でしょっちゅう病院に行かねばならなかったりとか、目に見えて痩せ
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