私生児/石畑由紀子
 
シ君は
母子二人の生活でも充分に充分に幸せだったのかもしれず。
                           母よ、私は知っ
ています。あの頃あなたとあなたの夫は喧嘩が絶えず、私と私の妹が寝静ま
った(はずの)深夜、子供部屋と一枚壁を隔てたリビングで「しばらく家を
出ますからね、子供たちをお願いします」と冷たく言い放ったのを。その瞬
間の部屋の天井がゆっくりと落ちてくるような圧追感とキュウンという胸の
痛みを私は今もはっきりと憶えています。次の朝あなたは変わりなく台所に
立っていましたね、その後ろ姿がいつか見られなくなるのだろうかとしばら
く私は怯えていたのですよ。そんな
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