近代詩再読 立原道造/岡部淳太郎
 

ああ何もかもあのままだ おまへはそのとき
僕を見上げてゐた 僕には何もすることがなかつたから
(僕はおまへを愛してゐたのに)
(おまへは僕を愛してゐたのに)

また風が吹いてゐる また雲がながれてゐる
明るい青い暑い空に 何のかはりもなかつたやうに
小鳥のうたがひびいてゐる 花のいろがにほつてゐる

おまへの睫毛(まつげ)にも ちひさな虹が憩(やす)んでゐることだらう
(しかしおまへはもう僕を愛してゐない
僕はもうおまへを愛してゐない)

(「虹とひとと」全行)}

 これも同じく『萱草に寄す』に収められているものだが、ここまで来るとそのナイーブさに微
[次のページ]
[グループ]
戻る   Point(15)