姿見のうしろの物語/佐々宝砂
 
って、
薄い紙っぺらのように上昇した。
あたりはもう梅雨時の日本ではなかった。
ツンドラ気候の大地に、
黒々と針葉樹林が広がっている。
この針葉樹林の中にも魚はいるのだ。
私は魚を探さなくてはならない。
どんな魚か思いだせなかった。
なつかしい友である金魚ではない、
夜の魚でも笑わない魚でもない、私の魚だ。
ばちんと裂ける音がした。
木のうろのなかで鼠がはぜたのだ。
でも私が探してるのは鼠じゃない。
私は暗い森のなかに踏み込む。
どこかでまたばちんと裂ける音がする。
さっきとやや音が違う。
裂ける魚が私の視界をさえぎる。
巨大なこの魚は、やや猫鮫に似ている。

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