姿見のうしろの物語/佐々宝砂
も私のまぶたをつついている。
3.
補陀落が来たのよとおかあさんは言ったが、
少女はどうしても信じられなかった。
補陀落の噂はこんな田舎町までも届いていたが、
詳しいことはインターネットにもテレビにも
報じられてはいなかったのだ。
噂によれば、補陀落について語りうるほどのひとは、
すでにみな補陀落に溶けてしまって、
報道機関にはボウフラのようなカスだけが残っているという。
補陀落を見たひとはみな、
それが青い海に似ていると言った。
ここ200年ばかり、
海は茶色い汚泥となり果て、
青い海を見たことのあるひとなどひとりもなかったのに。
少女は、母親に黙って家
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