姿見のうしろの物語/佐々宝砂
 
前に停まる。
乗り込むときっと病院に行くんだ。
病院は不潔で、
黄ばんだカーテンがひとつひとつの病床をくぎっている。
大戦後のある一日、
傷病者はみな死んでしまって、
私だけが取り残されて、駅前広場で、
タクシーに乗り込もうとしている。
タクシーに乗り込めば死ねるだろう。
死ねば、湿った優しい赤土が、
私のうえにおちてくるだろう。
赤土はたくさんの生き物を住まわせている。
ふたりのこびとも、
赤土の中では大人しくなるに違いない、
そうだ、あいつらはただ、
私を眠らせたいだけなんだから。
ただ、そうしたいだけなんだから。
こびとは白い服を風になびかせて、
なおも私
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