姿見のうしろの物語/佐々宝砂
ている。
泥沼から這い上がってきた生き物は
いつもなまめかしい艶を見せつけるけれど、
このサソリはどこからどこまで乾いている。
きっと砂漠からきたのだ。
黴のにおいがする、薄むらさきの砂漠から。
私たちの、故郷から。
2.
まぶたの上に白服のこびとがふたりいて、
小さな槍で私の目をつついている。
勤勉に、でも自分のしてることの意味なんか
ちっとも知らないままに。
やーい、と私はこびとに声をかける。
いくつもの時計が空からふってきて、
人っ子一人いない駅前広場の
明るいアスファルトの上に砕けてゆく。
無人のタクシーが一台やってきて、
すうっと私の目の前に
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