明日、いつも通りに/霜天
 
小さい、部屋。手を伸ばせば窓になれるし、空を少し撫でることだって、出来る。秋がくる、それまでにまだ、これほどの空気の壁が出来ていて。目を閉じても、耳を塞いでも、短い呼吸で手を伸ばせば、僕らは寄り掛かることが、出来てしまう。明日、いつも通りに僕は壁を押しているから、君は気付かれないように、僕の後ろから出て行ってくれればいい(出来れば息をしないで)。壁に寄り掛かるようにして、息を。爪先へ指先へ、詰めるようにして力を込める。背中から何か、張り詰めていたものが、すう、と抜けていく。ここから、帰っていけるだろうか。帰ってこれるだろうか。僕の後ろで、ぴったりと閉まった扉から、春の匂いとゆっくりとした君の足跡が
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