Drawing/鈴本 蘭乃
居た堪れなくなった。じゃあどうしろっていうんだ、そう不貞腐れるわたしの掌に、男が何かを握らせる。
「そんな世界で、何を求めて、どれを選んで、どう生きるか、だ。お前しか描けない物を描く覚悟は決まったか?」
そう言って微笑んだその男の表情からは、嘲りも哀れみも感じられず、わたしは困惑して、視線を掌に移した。決して大きくはないわたしの掌に握らされた、新品の、白いクレヨンを見つめる。
「白いクレヨンじゃ、何も描けない。」
わたしは半ば、その男が返す答えを予測しながら、そう言った。
「もう解っているんだろう?何を求めて、どれを選んで、どう生きるか。それはすべて、お前がお前自身で決めることだ
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