いのちの荒野?不毛の夏/前田ふむふむ
 

楽譜の上に演奏できない音符を書きしるしてある。
過去の写真アルバムには、
顔の無いわたしの姿だけが写しだされている。

世界は深い眠りのふところで、
水底の目覚めの春に浸ることなく、
赤い血の末端すら燃えていない、
不毛の夏を迎えている。

わたしは、この血液が過去の僥倖に巡りあうことなく、
過去のかなしみに浸ることもなく、
いまという祝祭的な現実を
失われる過去に葬らなければならないのか。

まもなく、最終の列車が殺伐とした意識の荒野の、
プラットホームにやって来る。
わたしは、かならず乗らなければならない。
終ることの無い長い旅になるかもしれないだろう。

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