マトス  (ショートストーリー)/よーかん
 

大きなノッポのフル時計のジャズ風ピアノアレンジが空々しく店内に流れている。
客がこの変人に興味をしめしている気配はもうない。
男のやや太めの眉毛の下の瞳は心なしか茶色がかって見える。
「まと、す、ですか・・・。」
金色の腕時計。
指輪はしていない。
「はい。」
男はスツールの上で僕の方に体を少し回転させて、カウンターに両肘を置き、両手にアゴを軽く乗せた。
深爪まで切ってある爪がピンク色に光っている。
綺麗に剃りあげられたアゴとモミアゲが緑色にくすんでいる。
サラリーマン。
営業。
保険セールス。
教師。
ピンとこない。
心理学者。
子供じみた推理か。
「どうかい
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