マトス (ショートストーリー)/よーかん
た。
カバンはスツールの背中にぶら下げたままだ。
店員をさりげなく見た。
佐藤。
確かにそう書いてある。
目が合うと、馴染みの客にするように、佐藤氏はゆっくりと僕に会釈をした。
とりつくろうように灰皿を見せて苦笑いしてみる。
かしこまりました、そんな表情を佐藤氏は作り、フワリと入り口の方に目を移した。
「おまたせしました。」
「いえ。それよりお時間は大丈夫ですか。」
時間は実は十分にある。
僕は毎朝このコーヒー屋で二十分、時間を潰すのを日課にしている。
満員電車に乗ってオフィスに向かう前に、自分だけの時間をゆっくりと持つ、そんなささやかな儀式めいたことを僕はこの数週間ここで
[次のページ]
戻る 編 削 Point(4)