マトス  (ショートストーリー)/よーかん
 
て火をつけた。
「かまいません。お吸いになってください。」
男はカップを静かに置いて、背もたれに身を落ち着かせた。
タバコの煙で肺を満たし、天井に向かってゆっくりとはく。
頭をカウンターに近づけて少しの間、目を閉じた。
目を上げて前を見る。
ガラス越しに早朝の駅前交差点が見える。
いつもと変わらない風景。
信号が青になり、歩行者が渡り始めた。
「平仮名のまとすと聞かれても、僕には答えようがありません。」
低い声でそう言いながら、男の瞳を覗きこんでみる。
この人は気がおかしいのかもしれない。
「まとす。それだけでは答えようがない。そうおっしゃるのですね。」
男がどこか嬉しそ
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