ひよこ/ヤギ
ってしまった。
正面には老人のような顔をした、痩せた男が座っていて、
止まりかけたひよこを手にとっては、背中のぜんまいを巻いていた。
(ひよこは良く出来た作り物なのだ)
そう知ると、ますますどうしようもなく欲しくなって、
頭の奥が熱くなり、石像のごとく立ち尽くした。
不意にひよこ売りは
「坊ちゃん、御銭(おあし)は持っているのかい。」
と尋ねた。
宿太は黙っていた。
「手に握っているのは何だい。」
知らずに握っていた手をそっと開いてみると、小銭が幾らか入っていた。
「それなら丁度一羽分だね。買うかい。」
半ば無意識に手のひらを差し出す
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