ひよこ/ヤギ
 
出すと、
ひよこ売りは、きらきら燃える指で銭を掴み取った。

「好きなのを選びな。」

どことなく目に付いた一羽を選び、
受け取った宿太は、喜びで満ち足りて、
ひよこを手のひらに歩かせながら、元来た方へ引き返した。
いかほども行かぬうちに、
後ろからわいわいと云(い)い争う声が聞こえてきた。

「なんだこのひよこは!冷たくなっているじゃないか(、、、、、、、、、、、、、)!」
「旦那、どういう意味で。」
「惚(とぼ)けるなっ。どのひよこも(、、、、、、)、既に冷たくなっていると云っているんだ(、、、、、、、、、、、、、、、、、、)!」
「うちのは皆元気ですぜ(、、、、、、、、、)。
難癖(なんくせ)つけようってんなら他所(よそ)へ行って呉(く)んな。」

宿太は突然、自分でも判らぬまま戦慄(わなな)いた。
そして、買ったばかりのひよこを放りだしたい衝動にかられながら
両手で必死に握りしめ
祈るように
大急ぎで去った。


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