遠い場所へ届こうとする言葉 ??中村剛彦『壜の中の炎』について/岡部淳太郎
 
こへ向かって歩いてゆけばよい
 
それは光り輝く南国の
二十四歳の朝
恋のように詩が生まれ
詩のように恋が生まれた
 
(「朝」全行)}

 ここで読者は、詩人の遠い声の誕生に立ち会うことになる。清新なみずみずしい抒情を湛えたこの詩は、若さゆえの「暁の砂漠のまぶしさ」に満ちていて美しい。「二十四歳の朝」、この時、詩人は遠い場所へ声を届かせる決意をしたのではないだろうか。その「見えた!」という瞬間の驚きと、世界が一瞬にして変貌する喜びとを、詩人は知る。遠い場所へ声を届かせようとする決意は、すなわち詩人として生きてゆく決意でもあるだろう。「あそこへ向かって歩いてゆけばよい」とうたわれ
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